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第7話 騙された者同士

Author: 6jay
last update publish date: 2026-09-16 08:51:54

遼の知人、宮本慎吾から届いたLINEグループの案内には、参加前に確認があると書かれていた。

契約書のうち、賃貸人と物件、仲介会社が分かる部分を送る。口座番号や署名など、関係のない個人情報は隠す。

紗良は送信前の画像を二度見直した。

何かに登録するだけで、もう身構えてしまう。

承認後に開いたグループ名は、《高木正志・サクラホーム被害者連絡会》だった。紗良と遼を入れて、十一人。

代表の黒田恵美がまとめたノートには、相談先と資料のそろえ方が並んでいた。警察、消費生活センター、法律相談。確認できた店舗の情報もある。

《未確認の情報は拡散しないでください》

《高木や佐伯を、一人で探しに行かないこと》

《原本と電子データは各自で保管してください》

紗良はスクロールを止め、その三つを読み返した。

犯人を捕まえに行こう、と騒ぐ場所ではなかった。大半の人は、まず明日も仕事へ行かなければならないのだ。

練馬の1LDKで、前払い家賃160万円。

中野のワンルームで、初期費用130万円。

同じ建物の201号室でも、180万円近くを払った人がいた。

「201って、下の階ですよね」

遼は自分のスマホを見たまま、うなずいた。

「ここは二重契約ではないみたいです。ただ、新しい担保の登記に気づいて、問い合わせたら連絡が取れなくなったと」

「一部屋に二人なの、私たちだけですか」

「今のところは」

「何の特典なんでしょうね」

「いらない特典です」

紗良は302号室のことを書き始めてから、手を止めた。

「どこまで書いていいですか」

「二人で確認できたところまで。支払額は、俺は出して構いません」

「私も。それ以外の個人的なことは、なしで」

契約日、入金時刻、番号を受け取った時刻。二人分を並べて投稿すると、すぐに返信がついた。

《振込先、うちと同じです》

《担当は佐伯でした》

《提出用の資料は別に保存してくださいね》

十一人の金額を足しかけて、紗良は計算機を閉じた。

自分の238万円が、ただの合計の一部になるのが嫌だった。何年かけて貯めたかも、あといくら返すのかも、その数字には出ない。

夜7時過ぎ、201号室の入居者の両親が訪ねてきた。

娘が仕事で来られないため、代わりに資料を見せに来たという。父親は古い家計簿の間から登記事項証明書を出した。

「娘も、ずいぶん無理をして払ってまして。そちらと受付の日が同じみたいなんです」

遼は原本を預からず、許可を取って必要な部分だけ撮影した。

「まだ俺たちも状況を調べているところです。相談して分かったことは、本人の方へ連絡します」

二人を見送ったあと、紗良は冷蔵庫へ水を取りに行った。

食卓に置いたスマホが、その間に光った。

《26日 返済予定額 28,640円》

戻った紗良は、画面を見ていた遼と目が合った。

「人のスマホ、見ないでください」

「すみません。通知が出たので」

紗良は伏せるように置いた。

取られたわけでも、操作されたわけでもない。分かっているのに、声が尖った。

「この家の前払い分、少し借りたんです。別に、払いますけど」

「……そうだったんですね」

「家賃をまた払うようになったら、その分も必要ですから。今は貯めないと」

ペットボトルの蓋を開け、飲まずに閉めた。

遼は同じ家を借りた相手だが、同じ金の持ち方をしているわけではない。

「コンビニ、寄ってきました」

遼が袋を食卓に置いた。

「食べ物を頼んだ覚えはないです」

「俺の夕飯です。二個買っただけで」

焼き鮭とツナマヨ。

遼は焼き鮭を取り、もう一つを真ん中へ置いた。

「余ったら、藤崎さん側の棚へ入れます」

「それだと、結局私が片づけることになりますよね」

「今食べてもらえれば、片づけなくて済みます」

紗良はツナマヨを取った。

「……もったいないので」

「合意書に、おにぎりの条項も必要ですね」

「それは絶対いりません」

包みを開いたところで、恵美から通知が来た。

翌週の土曜日、午後2時。合同法律相談の席が取れたという。

「これ、一緒に行きますか」

「はい。あとで説明を突き合わせるより、その場で聞いたほうがいいので」

紗良は画面を見せたまま、うなずいた。

食卓の真ん中には、二人分のおにぎりの包装が残った。

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